名簿の情報
レジ打ちひとつでも職人的な熱意で訓練する時期を過ごして処理速度が速くなってしまうと、もうぐずぐずやることはできなくなる。
速いリズムがどんどん気持ちよくなってくる。
人より処理が速いのは、自分で独自の技を開発して、あるいは、状況に応じて臨機応変に対応できるからである。
そこで体得した工夫は、他の仕事にも応用できることが多い。
人間の学ぶ喜びには、新しい発見をする喜びと、習熟する喜びの二つがある。
発見の喜びは人間にとっての本質的な感動だが、働くことにスポットを当てると、習熟の喜びというのが大きなエネルギーになる。
できること自体が面白いから、やらずにはいられない。
そうなったらしめたものだ。
職人気質というものは単調な労働にたいする見方を一変させる。
むしろ、そのものが気持ちよく、好きになるのだ。
Mの「午後の最後の芝生」(C『中国行きのスロウ・ボー卜』)には、アルバイトの芝刈りを、職人的丁寧さで仕上げる青年が出てくる。
「僕」は夏に彼女と旅行するための資金を貯めるため、芝刈りのアルバイトをしていたが、彼女と別れてしまい、お金の使いみちがなくなったことに気づく。
使いみちのないお金を稼ぐことは無意味だと思ったので、アルバイトを辞めることにした。
芝刈りの斡旋をしている社長は、彼の仕事ぶりの評判がいいのでとても残念がっている。
実際に僕はすごく評判がよかった。
丁寧な仕事をしたせいだ。
大抵のアルバイトは大型の電動芝刈機でざっと芝を刈ると、残りの部分はかなりいい加減にやってしまう。
それなら時間も早く済むし、体も疲れない。
僕のやり方はまったく逆だ。
機械はいい加減に使って、手仕事に時間をかける。
当然仕あがりは椅麗になる。
ただしあがりは少ない。
一件いくらという給料計算だからだ。
[中略]僕はべつに評判を良くするためにこんなに丁寧な仕事をしたわけではない。
信じてもらえないかもしれないけれど、ただ単に芝生を刈るのが好きだったのだ。
芝が伸びているほどやりがいがあって、きれいに刈っていくことに面白さを感じる子どものような素直さ。
「単に好きだから」労を惜しまずきれいに自分の仕事を仕上げるのはまさに職人気質だ。
とにかく僕は芝を刈りつづけた。
芝が伸びていればいるほど、やりがいはあった。
仕事が終ったあとで、庭の印象ががらりと変ってしまうのだ。
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